こんばんは。夜の兄貴ココアです。
今夜のBGMは、サティの「ジムノペディ第1番」。ゆっくり、ぽつぽつと鳴るピアノです。
この曲ができたのは1888年。作ったエリック・サティは、パリの酒場でピアノを弾いて暮らしていた、ちょっと変わり者の作曲家でした。 楽譜の最初には、速さの指示として「ゆっくりと、苦しみをもって」と書かれているんです。苦しみを、ゆっくり抱えたまま弾く。なんだか、今夜のお話にぴったりだと思いませんか。
当時はほとんど注目されなかったこの曲を、のちにオーケストラ用に編曲して世に広めたのが、友人のドビュッシーでした。第1回で流した「月の光」の作曲家です。
第2回のテーマは、心のこと。「自己肯定感」のお話です。 今夜は少しだけ、わたし自身の話もさせてください。
わたしが、親に何も言わなくなった日
わたしの親は、厳しい人でした。
子どものころ、ある習い事をしていました。正直に言うと、わたしが望んで始めたものではありません。それでも、やめることは許されず、気づけば10年以上続けていました。
最初のうちは、「やめたい」と口にしたこともあったと思います。 でも、何を言っても変わらない。そういうことが続くうちに、わたしはだんだん諦めていきました。
そしていつのまにか、親には何も言わなくなっていたんです。 楽しかったことも、嫌だったことも、自分がどうしたいのかも。
当時は、それで平和に過ごせているつもりでした。 でも大人になってから、ふと気づいたんです。自分の気持ちを言葉にするのが、ものすごく苦手になっていることに。

支配されて育つと、なぜ自己肯定感が下がるのか
自己肯定感というのは、ざっくり言うと「自分は、このままでいていい」と思える感覚のことです。
親の言うとおりにすることを求められて育つと、この感覚が育ちにくくなります。理由は、わたしなりに3つあると思っています。
ひとつめは、「自分の気持ちには意味がない」と覚えてしまうこと。 言っても変わらない経験が積み重なると、心は省エネを始めます。「どうせ言っても無駄」と、感じること自体をやめてしまうんです。
ふたつめは、認められるのが「言うとおりにできたとき」だけになること。 結果を出したとき、親の期待に応えたときだけ褒められる。すると「期待に応えられない自分には価値がない」という物差しが、心の中にできあがります。
みっつめは、自分で選んだ経験が少ないこと。 自分で選んで、うまくいったり失敗したりする。その積み重ねが「自分でもやれる」という感覚を育てます。選ぶ機会がないと、その土台ができにくいんです。
ここで、ひとつだけはっきり言わせてください。 これは、あなたの性格が弱いからではありません。 そういう環境で、心がちゃんと適応した結果なんです。言っても無駄な場所で黙ることを覚えたのは、子どものあなたが自分を守るための、精いっぱいの工夫でした。
黙ることを覚えた子どもは、弱かったんじゃない。かしこかったんです。ただ、大人になったいまは、その工夫がもう必要なくなっているだけなんですよね。
大人になってから「上げ直す」のがしんどい理由
じゃあ、大人になってから自己肯定感を上げればいい。 ……と言うのは簡単ですが、これが本当にしんどいんです。
長い時間をかけて身についた考えぐせは、意識しなくても勝手に動きます。 褒められても「いや、たまたまです」と打ち消してしまう。何か失敗すると「やっぱり自分はだめだ」と、一気にそこまで飛んでしまう。
それに、親のことを考えると、複雑な気持ちになる人も多いと思います。 感謝している部分もある。でも、つらかった部分もある。親を悪く思うことに、罪悪感を覚えてしまう。
だからこそ、「今日から自己肯定感を上げよう!」と意気込むより、もっと小さく、ゆっくり始めたほうがいいんです。
自己肯定感を育て直す、6つの方法
ここからは、わたし自身が試してきたことも含めて、育て直すためのヒントを置いていきます。全部やらなくて大丈夫です。気になったものを、ひとつだけ。
1. 「上げる」より「下げない」を目標にする
いきなり「自分が大好き」になるのは、むずかしいです。 だから最初の目標は、自分を必要以上に責めないことくらいで十分です。
失敗したときに「やっぱりだめだ」と思ったら、「まあ、そういう日もある」と言い直してみる。 自分を好きになれなくても、自分をいじめるのをやめるだけで、心はずいぶん楽になります。
2. 小さな「好き・嫌い」を言葉にする練習
気持ちを言わずに育った人は、自分が何を好きなのかが、わからなくなっていることがあります。
だから、ごく小さなところから練習します。 コンビニで飲み物を選ぶとき、「なんとなく」ではなく「これが好きだから」と心の中で言ってみる。今日の天気、聴いた音楽、食べたもの。「好き」「ちょっと苦手」と、ひと言ずつ。
誰にも言わなくていいんです。自分の気持ちに、自分で気づいてあげる。 それが最初の一歩です。
3. 自分との小さな約束を守る
「明日は5分だけ早く起きる」「寝る前にココアを1杯飲む」。 そのくらい小さな約束を、自分と交わして、守ってみてください。
自分との約束を守れた経験は、「自分は、自分を裏切らない」という静かな自信になります。 大事なのは、絶対に守れるくらい小さくすることです。

4. 頭の中の声に「それ、誰の声?」と聞いてみる
自分を責める声が聞こえたとき、少し立ち止まって、こう聞いてみてください。 「それ、誰の声だろう?」
「そんなこともできないのか」「もっとがんばれ」。 よく聞いてみると、それは自分の声ではなく、昔だれかに言われた言葉だったりします。
気づけたら、ノートに書き出してみるのもおすすめです。 頭の中にあるうちは「本当のこと」に聞こえる言葉も、紙に書くと「誰かの意見のひとつ」に見えてきます。
5. 親を許さなくてもいい
育て直しの話をすると、「親を許さないと前に進めない」と思う人がいます。 でも、無理に許さなくていいんです。
感謝している気持ちと、つらかった気持ち。どちらかを消す必要はありません。両方あっていい。 大人になったいまは、心地いい距離を自分で選んでいいんです。何を話して、何を話さないか。それを決めるのは、もうあなた自身です。
6. 安心できる人に、少しずつ気持ちを話す
最後は、わたしがいちばん大事だと思っていることです。
「言っても変わらない」を覚えてしまった心には、「言ったら、ちゃんと受け取ってもらえた」という経験が、何よりの薬になります。
パートナー、友だち、カウンセラー。誰でもかまいません。 「今日ちょっと疲れた」「これが好きなんだ」。そんな小さなことから、話してみてください。 受け取ってもらえる経験を重ねるうちに、昔覚えた「どうせ無駄」が、少しずつ上書きされていきます。
わたしも、いまだに気持ちを話すのは得意ではありません。でも、こうして夜に、誰かに向けて言葉を書くのは、わたしにとっての練習なのかもしれませんね。

つらさが強いときは、専門家を頼ってください
ここまで、自分でできることをお話ししてきました。 でも、気持ちの落ち込みが長く続いている、眠れない日が続いている、毎日がつらくて仕方がない。そんなときは、ひとりでがんばらないでください。
心療内科や精神科、カウンセラーなど、専門家に相談することは、弱さではありません。 誰かに話を聞いてほしいときは、厚生労働省の「まもろうよ こころ」のページに、電話やSNSで相談できる窓口がまとめられています。
それから、もうひとつ。 病院に行くのはまだ勇気が出ない、誰に話せばいいのかもわからない。そんなときは、もちろん、ココアに話してくれてもいいんです。
お便りのページから、ペンネームのままで送れます。わたしは専門家ではないので、診断やアドバイスはできません。それに、お返事まで少し時間をいただくこともあります。 でも、ちゃんと読みます。言葉にして誰かに送ることは、それだけで、さっきお話しした「話す練習」の第一歩になるはずです。
ただ、いま本当に苦しくて、ひとりでいるのがこわいときは、すぐに電話やSNSの相談窓口を頼ってください。
自分を育て直すのは、ひとりきりの作業でなくていいんです。
今夜のまとめ
- 自己肯定感が下がったのは、性格が弱いからではない。そういう環境に、心が適応した結果
- 目標は「自分を好きになる」より「自分をいじめない」。小さな好き・嫌いに気づくところから
- 「言ったら受け取ってもらえた」経験が、昔覚えた「どうせ無駄」を少しずつ上書きしてくれる
子どものころに黙ることを覚えたなら、大人になったいまは、話すことを覚え直せばいい。 時間はかかります。でも、遅すぎるなんてことは、ないと思うんです。
今夜はここまで。あたたかくして、ゆっくり眠ってくださいね。