こんばんは。夜の兄貴ココアです。
今夜のBGMは、バッハの「コーヒー・カンタータ」。
あの厳格そうなバッハが書いた、ちょっとしたコメディです。コーヒーがやめられない娘と、なんとかやめさせたい父親の、親子げんかのお話。娘は「コーヒーは千回のキスよりすてき」とまで歌ってしまいます。 この曲は、ライプツィヒにあったコーヒーハウスで、バッハが率いていた音楽仲間たちによって演奏されたと考えられています。当時のヨーロッパで、コーヒーはそれくらい人々を夢中にさせていたんですね。
今夜は、そんなコーヒーにまつわる、ちょっと意外な発明のお話です。
突然ですが、クイズです。
世界で初めてのWebカメラは、いったい何を映していたと思いますか?
街の様子? 空の天気? 研究室の実験装置? 正解は……大学の廊下に置かれた、コーヒーポットです。

ケンブリッジ大学の、コーヒーポット
舞台は、イギリスのケンブリッジ大学のコンピューター研究所です。
1991年、研究所の「トロイの部屋」と呼ばれる部屋のそばに、みんなで使うコーヒーポットがありました。 ところが、建物のあちこちで働く研究者たちは、コーヒーを飲もうとわざわざ歩いてきたのに、ポットが空っぽということがよくあったんです。
「わざわざ来たのに、空っぽか……」
そこで研究者たちは、ポットにカメラを向けて、その映像を自分たちのパソコンの画面に映すソフトを作りました。 これで、席に座ったままコーヒーの残りがわかる。名付けて「XCoffee」。
そして1993年11月。この仕組みがWeb、つまりインターネットのページから見られるようになりました。 これが、世界初のWebカメラと言われています。
コーヒーポットが世界初のWebカメラになるまで
- 1 不便 歩いていったのに、ポットが空っぽ
- 2 工夫 ポットにカメラを向けて、自分の席の画面に映す(1991年)
- 3 世界へ Webにつなぎ、世界中から見られるように(1993年)
研究所の中だけの、ささやかな工夫だったはずのコーヒーポット。 ところが、これが世界中で話題になります。わざわざコーヒーの残りを見るためだけにアクセスする人が後を絶たず、アクセス数は100万回を超えました。
カメラが止められたのは2001年8月。研究所が引っ越すことになったのがきっかけでした。 最後まで働いたポットはネットオークションにかけられ、ドイツの雑誌社のニュースサイトが3,350ポンドで落札しています。
コーヒーが残っているかどうかを、世界中の人が見守っていた。なんだか、平和な話ですよね。わたしのマグにもカメラをつけたら、誰か見てくれるでしょうか。
身近な「ちょっと不便」から生まれた、ほかの大発明
じつは、こういう「ちょっと不便」から生まれた発明は、ほかにもたくさんあります。 今夜は3つ、紹介させてください。
ちょっと不便から生まれた発明
ポストイット1968年〜
- ちょっと不便
- 聖歌隊で歌うとき、楽譜にはさんだしおりがすぐ落ちる
- ひらめき
- 同僚が作った「よくくっつかない接着剤」を、しおりに塗ってみた
- その後
- 1980年に商品化。いまや世界中の机に
面ファスナー1941年〜
- ちょっと不便
- 犬と散歩したら、服と毛にゴボウの実がびっしりくっついた
- ひらめき
- 実をよく見たら、小さなかぎ状のトゲ。これを布で再現できないか
- その後
- 約8年かけて完成。名前はフランス語の「ビロード」と「かぎ」から
回転寿司1958年〜
- ちょっと不便
- お店は忙しいのに、人手が足りない
- ひらめき
- ビール工場で、瓶がベルトコンベアで流れていくのを見た
- その後
- 1970年の大阪万博で話題になり、全国へ
ポストイット 「失敗作」が、しおりに化けた
1968年、アメリカの3M社の研究者スペンサー・シルバーは、強力な接着剤を作ろうとしていました。ところが、できあがったのは、くっつくけれど簡単にはがれてしまう、弱い接着剤。いわば失敗作です。
それから数年後。同じ会社のアート・フライは、教会の聖歌隊で歌うとき、楽譜にはさんだしおりがすぐに落ちてしまうことに困っていました。 そこで思い出したのが、あの「よくくっつかない接着剤」。しおりに塗ってみたら、ちゃんと貼りついて、きれいにはがせる。
失敗作と、ちょっとした不便が出会って、あの黄色い付箋が生まれたんです。
面ファスナー 散歩の帰りに、ひっつき虫
1941年、スイスの技術者ジョルジュ・デ・メストラルは、愛犬を連れて山を歩いていました。 帰ってくると、ズボンにも犬の毛にも、ゴボウの実がびっしり。
普通なら「もう、面倒だな」で終わるところです。でも彼は、その実を顕微鏡でのぞいてみました。すると、実のトゲの先が、小さなかぎ状になっていて、布の輪っかに引っかかっていたんです。
これを人工的に作れないか。そう考えた彼が、試行錯誤のすえに完成させたのが、面ファスナーです。 商品名の「ベルクロ」は、フランス語の「ビロード(velours)」と「かぎ(crochet)」を組み合わせた名前なんですよ。
回転寿司 ビール工場で、ひらめいた
大阪で立ち食い寿司のお店を営んでいた白石義明さんは、人手不足に悩んでいました。 お客さんはたくさん来るのに、握る人も運ぶ人も足りない。
そんなとき、ビール工場を見学した白石さんは、瓶がベルトコンベアに乗って次々と流れていく様子を目にします。 「これで、お寿司を流せないか」。
試行錯誤のすえ、1958年に第1号店が誕生します。これが回転寿司のはじまりです。1970年の大阪万博に出店したことで一気に知られ、全国に広がっていきました。

発明家たちに共通すること
コーヒーポット、しおり、ゴボウの実、人手不足。 こうして並べてみると、どれも、わたしたちの毎日にもありそうな「ちょっと不便」ばかりです。
発明につながった人たちには、いくつか共通点があるように思います。
- 「仕方ない」で終わらせなかった:空っぽのポットも、くっつく実も、普通なら「まあ、そんなものか」で終わる話です。
- いい意味で、めんどくさがりだった:わざわざ歩くのが面倒、人手が足りなくて大変。楽をしたい気持ちが、工夫のエンジンになっています。
- 失敗作や、関係なさそうなものを捨てなかった:くっつかない接着剤、ビール工場のコンベア。別の場所にあったものを、自分の不便につなげています。
大発明と聞くと、天才がある日突然ひらめくもの、という気がします。 でも実際は、「ちょっと面倒だな」と思った普通の人が、ほんの少しだけ工夫してみた。そこから始まっていることが、意外と多いんですよね。
今夜のまとめ
- 世界初のWebカメラは、ケンブリッジ大学のコーヒーポット。「歩いていったら空っぽ」が始まり
- ポストイット、面ファスナー、回転寿司も、身近な「ちょっと不便」から生まれた
- 大発明は、天才のひらめきより「めんどくさい」を放っておかない小さな工夫から始まることが多い
あなたの毎日にも、「これ、ちょっと不便だな」と思っていることはありませんか。 もしかしたら、それが次の大発明の種かもしれません。
思いついた「ちょっと不便」があったら、お便りで教えてください。 ちなみにわたしの「ちょっと不便」は、ココアを作るたびに、粉がなかなか溶けないことです。